カンボジア系移民の若者たちが生んだ、アメリカ最大級のアジア系ギャング、Tiny Rascal Gang(TRG)「小さないたずらっ子」。
そんな可愛らしい名前とは裏腹に、Tiny Rascal Gang(TRG)は、殺人・強盗・麻薬密売・ホームインベージョンなど、数々の凶悪犯罪でアメリカ社会を震撼させてきたアジア系ストリートギャングだ。名前は可愛い。だが、その実態は“Big Trouble”そのものだった。
[起源 — 難民の子供たちが生きるために掴んだ「自衛」]
TRGは1980年代初頭〜中盤、カリフォルニア州ロングビーチで生まれた。
クメール・ルージュによるジェノサイドと内戦から逃れてきたカンボジア難民の子供たちを中心に結成された。彼らの多くは、親が生きるために必死で働く中、言葉も文化も分からない環境に放り出された。ロングビーチ東側に形成された「カンボジアタウン」では、地元の大規模ヒスパニックギャングEast Side Longos(Varrio Longo 13系)から日常的に暴行や脅迫を受けていた。
英語もままならないカンボジア系の若者たちは、身を守るために小さなグループを作り始めた。それがTRGの始まりだ。当初はまだ子供ばかりの「ちっちゃな悪ガキ」という意味で「Tiny Rascal Gang」と名付けられたと言われる。一方、TRGのOGラッパーMr. Crookによれば、「TR」はサンタアナに存在していた先行グループの流れを汲み、「T」と「R」はそれぞれ尊敬する先輩の頭文字から取られたものであり、一部で噂されている子供向け番組『Little Rascals』由来ではないと語っている。
[組織化と文化]
TRGは急速に組織化され、黒人系、ヒスパニック系ギャングの文化・ファッション・慣習を積極的に取り入れた。アジア系ギャングとしては初期に大規模化したグループの一つである。
シンボルカラー: 灰色などの無彩色を基調とし、Rascalsの頭文字2文字とギャングカラーが同じであるNFLのRaiders(黒と銀)も好んで使用。
数字: 「7126」(7=T、1=R、2=G、6=G)
ハンドサイン:親指と中指を丸めてTRGを表現。そのサイン同士を合わせてハート型にしたものは「Rascal Love(ラスカル・ラブ)」と呼ばれる。
入会儀式: 「Jump-in(ジャンプイン)」 — 既存メンバー複数人による一定時間の集団暴行に耐え抜く。
TRGは人種や性別の壁も比較的早い段階で取り払っていった。メンバー構成も多様化した。カンボジア系を中心に、フィリピン系、ラオス系、ベトナム系、韓国系、中国系、日本人、モン族、白人、黒人、ヒスパニック系など多民族に広がっていた。女性メンバーもおり、かつて「Lady Rascal Gang(LRG)」という女性派閥も存在した。年齢層も非常に幅広い。活動地域はロングビーチを中心に、サンタアナ、ポモナ、ストックトンなどカリフォルニア州内各地に広がり、全米16州以上(ワシントン、オレゴン、ハワイ、テキサス、ニューヨークなど)へ拡散。強制送還によりカンボジア本国やカナダ、オーストラリアにも関連グループが生まれた。
[主な犯罪と恐れられた手口]
殺人、強盗、麻薬密売、武器密売、恐喝、放火など多岐にわたる。特に悪名高いのがホームインベージョン(住宅侵入強盗)だ。「アジア系家庭は現金を家に保管し、警察に通報しない」というステレオタイプ、偏見を悪用した手口で、州境を越えた連携も見られた。法執行機関の資料では、TRGは少なくとも数十の「セット(派閥)」を持ち、5,000〜10,000人規模のメンバー・関係者を抱える「アメリカ最大規模のアジア系ストリートギャングの一つ」と位置づけられている。
[血で染まった抗争]
最大の敵は結成時からの宿敵・East Side Longos。
1989年、TRGメンバーによる16歳のLongosメンバーOswaldo Carbajal射殺事件をきっかけに抗争は激化。1990年代初頭のロングビーチでは40人以上が死亡したとも言われる。さらにメキシカン・マフィア(La Eme)がTRGに対して「green light(殺害許可)」を出したことで、Sureños系全体との対立に発展した。また、TRGから分裂した**Asian Boyz(ABZ)**とも長年激しく抗争を続けてきた。無関係の一般人も巻き込む悲劇は今も続く。
2017年10月: カンボジアタウンの酒屋で乱闘の末に2人射殺、一般客も負傷。
2019年10月29日: ハロウィンパーティー襲撃事件。ABZ関係者がいるとの誤情報に基づき、一般人ばかりのパーティーを銃撃。3人死亡・9人負傷。2024年に主犯格の複数被告に終身刑判決が下された。
他にも、1995年のベトナム系一家5人殺害事件に関与したRun Chhounや、刑務所脱走で話題になったJonathan Tieu、近年マサチューセッツでフェンタニル関連で有罪となったArmani “Shotz” Minier-Tejadaなど、悪名高いメンバーも多い。
[ストリートから這い上がった者たち]
一方で、TRG出身者の中には音楽やダンスで道を切り開いた者もいる。
Mr. Crookやその甥のTee Camboはロングビーチのカンボジア系コミュニティで影響力を持ち、Vanna Fut(Big Lazy)は著名ブレイクダンサーとしてドキュメンタリー『Raskal Love』にも登場した。
「タイニー(ちっちゃい)」という名前とは裏腹に、TRGはアメリカ社会の一部で長年恐れられてきた巨大な存在となった。
難民の子供たちは、時に生き延びるために怪物へと変わった。しかし、その悲劇は過去のものではない。
今この瞬間も、同じような貧困と暴力の渦の中で、新たな“Tiny Rascals”が生まれ続けているのかもしれない。