2025年11月29日(土)カリフォルニア州ストックトンのバンケットホールでは、家族と友人が100人から150人集まり、子どもの誕生日パーティーを祝っていた。それは毎年11月の最終木曜日に行われるアメリカ国内最大の祝日、サンクスギビングデー(感謝祭)の週末だった。ターキーやハニーハム、マッシュポテトにグレービーソース、アップルパイにパンプキンパイ...家族が集って料理を囲み、ゆったりと過ごす幸せなホリデー。翌日のブラックフライデーでお目当ての商品を手にいれる...そんな祝日モードの最中、事件は起こった。
パーティーは地元ラッパーの「NanoMB」本名ルチアーノ・ゲレロ(Luciano Guerrero)の2歳の娘の誕生日を祝うために開かれたものだった。会場にはNanoMBの従兄弟であるラッパーの「MBNel」本名ジョネル・ドンゴン(Jhonel Dongon)や「Dougy3z」本名ビリー・ウィリアムズ(Billy Williams)も訪れていた。
そしてケーキカットの直前の午後6時前、突然会場を裂くような銃声が鳴り響いた。室内から始まった射撃は外へと広がり複数の者が発砲を行った。現場の至る所で人々が次々と倒れ、会場は悲鳴と混乱、そして狂気に包まれた。少なくとも5丁の銃が使用され、50発以上の薬莢が発見された。
13人の負傷者。死者4人。死亡したうちの3人は子供だった。犠牲となったのは
アマリ・ピーターソン (Amari Peterson, 14歳)
マヤ・ルピアン (Maya Lupian, 8歳)
ジャーニー・ローズ・レオトゥター・ゲレロ (Journey Rose Reotutar Guerrero, 8歳)
スサノ・アーチュレッタ (Susano Archuleta, 21歳)
この痛ましい事件は“偶発的な乱射”による無差別テロではなかった。警察は「標的を絞った(Targeted)」犯行であり、ギャング間の抗争が背景にあると見ている。標的にされたのは亡くなった犠牲者たちではなく、MBNelをはじめとする表向きは「音楽レーベルのクルー、地元では事実上のギャング」とみなされている Muddy Boyz(MB)/FlyBoys のメンバーらであったと言われている。
全国メディアでは「子供の誕生日会での悲劇」という見出しで一報は流れるが、その背後にある「ギャング抗争(Gang Related)」という文脈が見え始めると、報道がトーンダウンしたり、詳細が掘り下げられなくなる。
一部メディアではこの事件を「子供の誕生日パーティーでの無差別乱射」として銃規制強化の議論に結びつけて報道されている。しかし、事件が起きたカリフォルニア州は、全米50州の中で最も厳しい銃規制を持つ州の一つで、合法的な銃の入手は極めてハードルが高いのが現状である。
条件軍用ライフル(AR-15やAK-47タイプ)、大容量マガジン(10発以上)は禁止、銃を購入・所持する際には 厳格な身元調査の下、安全性試験や登録制度 が必要で、販売される拳銃のモデルも州が定めたリストに入っていなければならない。
結果として、『法律を守る善良な市民ほど銃を所持しにくくなり無防備』となるー方、ストックトンのような犯罪率の高い街で、『規制を完全に無視するギャングや犯罪者などの悪党は違法で銃を入手し、街中で乱用する』といった不可解な矛盾が生まれてしまう。アメリカ社会では、既に銃の巨大ストック『闇銃』がある。2025年のストックトンだけでも750丁以上が回収されているが、ギャングの手元にはまだまだ残っている。
だからといって銃規制を緩和した方が良いと言っているのではない。ただ、既に大量の銃が流通しているアメリカでは犯罪市場の銃流入を防ぎきれず、制度だけで暴力を抑えるのは限界がある。
『銃規制しないのが悪い、なんでこんな事件が起こってまで銃規制しないのだ』という声をよく耳にするが、2歳の誕生日会で銃をぶっ放す精神状態の者達が銃規制を守るわけがない。既に銃の巨大ストックのある米社会で銃規制を行えば、ギャングや犯罪者、テロリストなど法律を気にしない者達だけが違法銃を所有してそれを振りかざし、殺人、強盗といった犯罪を行い、健全な市民の生活を危険に陥れる。
「既に大量の銃が出回っている現実」と「極限まで低下したモラル」という根本的な問題、地域社会のあり方、根深い社会構造が改善されなければこのような事件は繰り返されてしまう。
地元民や他の情報筋では銃撃は対立するラップ集団のギャングEBK、またLouis Park Bloodsも絡んでいるのではないかと言われている。パーティー参加者の多くはギャングメンバーだったと言われ、事件について誰も口を割りたがらないと言われている。
14歳の息子を亡くした犠牲者の父親の地元メディアのインタビュー映像は編集(カット)が多く、肝心な部分が語られていないように見えるが、記事ではマスクを被った者が現れ、まずラッパーのMBNelを狙っていたように見えたと語ったと報じられている。
MBNelの父親の証言によると、ネル自身もこの襲撃で被弾したが、幸い命に別状はなく、彼は少し前からストックトンを離れ、サクラメント近郊に拠点を移し現在は身を潜めているとの事である。また、父親に対しては、この事件について一切口外しないよう指示したとも報じられている。
パーティー主催の母親は誰も傷つけるつもりはなかった、犠牲者家族に申し訳なく思っていると涙ながらにカメラの前で述べた。
彼女も被害者であり、責められるべきではないが、彼女の首に刻まれているChoke bityのタトゥーは、ブラッズギャングへの関与が見受けられるものとされている。これはブラッズに見られる「C」を」「B」に置き換える、『city』を『bity』としたもの。
彼女は3人の異なるFlyBoysのギャングメンバーとの間に子供がいると言われ、Chokeは2、3年前に殺害されたベイビーダディー(子供の父親)の名前と言われている。彼女がパーティー直前に、Instagramのストーリーに招待状を投稿し(現在は削除済み)それにはパーティー会場の正確な場所が含まれており、これが犯人に情報を与えてしまったのではないかと言われている。
「ギャング抗争」による「報復の連鎖」この事件の背景にはギャング同士の対立による未解決の殺人事件が非常に多い。
パーティーのホストのNanoMB、そしてDougy3zも保護観察違反、違法な銃器所持、麻薬関連の罪状など別の容疑で逮捕された。
捜査当局は懸賞金をこれまでにない異例の金額、総額13万ドル(約1,950万円)にまで引き上げ市民からの情報提供を必死に呼びかけているが、未だ事件の解明に至っていない。
ストックトン市長のChristina Fugazi 氏は、感謝祭の週末に起こった悲劇に深い悲しみを表明し、この事件をギャング暴力の標的型攻撃と強く非難している。そして自らの手で裁きを与えないよう警告している。
亡くなられた被害者のご冥福を心からお祈り申し上げ、事件の全容が解明とこの悲劇の連鎖が一日でも早く断ち切られることをただただ願うばかりである。