2024年6月23日、フロリダ州タンパ。26歳の誕生日を祝った数時間後、ジャクソンビル出身のラッパー、Julio FoolioことCharles Andrew Jones IIは、ホテルの駐車場で銃弾の雨を浴び、命を落とした。
これは偶然の襲撃ではない。誕生日パーティーを狙った、綿密に計画された待ち伏せ攻撃であった。捜査の結果、5人が殺人などの容疑で起訴され、検察は長年続くジャクソンビルのギャング抗争が事件の背景にあると主張した。
Julio Foolioは、Drillシーンを代表するラッパーの一人として、ストリートでの現実を赤裸々にラップし、多くのファンを魅了してきた。しかしその一方で、彼はジャクソンビルの「6 Block/KTA」と「ATK/1200」による長年の抗争の渦中にあったのである。
事件から約2年。法廷では監視カメラ映像、携帯電話の位置情報、SNSへの投稿、そして共犯関係を示す数々の証拠が次々と示され、事件の全貌が明らかになっていった。
Foolio最後の足取り
Foolioは2024年6月21日、26歳の誕生日を迎えた。誕生日を祝うため、同日からフロリダ州タンパでイベントを開催。宿泊先のAirbnbでのプールパーティーや、ナイトクラブ「Teasers Gentlemen's Club」への出演をSNSで精力的に告知していた。当日も何度もInstagramにリアルタイム投稿を行っていたが、検察はこのソーシャルメディア投稿こそが、敵対勢力に居場所を把握されるきっかけになったと指摘している。
6月21日にタンパへ到着したFoolioは、Don Julioのテキーラで乾杯しながら、翌22日にかけて宿泊先のAirbnbでプールパーティーを楽しんでいた。しかし、23日へと日付が変わった午前1時半頃、騒音の苦情を受けて警察が介入し、退去を求められることとなる。Foolioは午前1時34分、Instagramにこう投稿した。
「警察にパーティーを中止にされて、Airbnbから追い出されたわ。マジでとんでもねえな 🤦♂️」
続いて午前1時41分にはストーリーを更新。
「過去最高の誕生日だぜーーー 🤞🤞🤞🤞🤞 来てくれたみんな本当にありがとう、限界までブチ上がったな。今からショーに向かうから、みんなも来てくれ!」
Airbnbを後にした Foolio 一行は、午前2時20分頃、事前に告知していたナイトクラブ「Teasers Gentlemen’s Club」に到着する。ここではパフォーマンスを行わず、午前3時前に店を出て次のクラブ「Truth 18」へと移動した。午前3時半頃、彼は「Truth 18」の当日用フライヤーと、現地に到着する様子をSNSにアップしている。
そして午前4時過ぎ、「Truth 18」を出発。午前4時27分頃、宿泊先を探して「Home2 Suites by Hilton」の駐車場へ到着した。
黒のDodge Chargerの運転席には友人Xavier Edwards、助手席にFoolio、後部座席にはGeno Norrisが乗っていた。ホテル正面に車を停め、Foolioがフロントへ空き部屋を確認しに向かったものの、あいにく部屋は確保できず車内へ戻る。次に滞在できるホテルを車内で探していた、まさにその時であった。
襲撃の瞬間と惨劇
ホテルの正面に停めた黒のDodge Chargerが狙われた。
ARスタイルの半自動ライフルや、スイッチを装着して全自動化したGlock拳銃で武装した3人の覆面銃撃犯が接近し、車両に向かって30発以上の弾丸を撃ち込んだ。Foolioは胸部、背中、右腕などを複数回撃たれ、心臓や肺、大動脈を貫通する致命傷により即死した。
車内にいた友人のうち、生き残った2人は車を降りて命からがら近くの「Holiday Inn」へ走り込み、エレベーターで3階へと逃げ延びた。また、銃撃が始まった際、パニック状態で駐車場から車(日産車)を衝突させながら走り去ったもう一人の友人(Camia Bentley)も負傷を負った。
容疑者の逮捕と役割分担
現場からは31個の9mm弾の薬莢が回収されたが、ARライフルの薬莢はほとんど残されていなかった。検察は、5人が綿密な計画のもとでチームのように連携して犯行を実行した「計画的共謀殺人」であると主張した。
事件から約1ヶ月後の2024年7月29日、タンパ警察はIsaiah Chance、そのガールフレンドのAlicia Andrews、そしてSean Gathrightの3人を逮捕。その3日後の8月1日にRashad Murphyを逮捕し、2025年1月6日には最後の容疑者であるDavion Murphy(Rashadの従兄弟)を逮捕し、全員の身柄が拘束された。
起訴された5人は以下の通りである。
- Alicia Andrews(当時21歳、Chanceの交際相手)
- Isaiah Chance(当時21歳、ATK関連)
- Sean Gathright(当時18歳)
- Rashad Murphy(当時30歳、1200)
- Davion Murphy(当時27歳、1200、Rashadの従兄弟)
犯行グループは「監視・追跡班」と「実行・襲撃班」の2班に分かれ、2台の車両を使用していた。
- 監視・追跡班(シルバーのシボレー・クルーズ):
Isaiah Chance と Alicia Andrews。当日のFoolioの後を密かに追跡していた。 - 実行・襲撃班(黒のシボレー・インパラ):
フェイスマスクで身を包み武装した Sean Gathright、Rashad Murphy、Davion Murphy の3人。監視班からの連絡を待ち、襲撃のタイミングを伺っていた。
犯行現場となったホテルでは、襲撃班が裏側に回って攻撃のチャンスを待ち、追跡班がホテル正面を走ってFoolioの車の位置を確認していた。追跡班が去った約50秒後、車から降りてきた襲撃犯がFoolioの車へ向かって怒涛の発砲を開始したのである。
ホテルの駐車場に停まっていたテスラのセントリーモード(防犯カメラ)やホテルの監視カメラには、この連携した動きが鮮明に記録されていた。1発目の射撃が行われた後、Foolioの車は急発進で逃れようとしたが、実行犯らは逃げる車を追いかけ、容赦なく弾丸を浴びせ続けた。検察は、5人が互いに連絡を取り合い、まるで一つの暗殺チームのように組織的に動いていたと結論付けた。
事件の背景にある「ドリルラップ抗争」
この事件の根底にあるのは、ジャクソンビルで長年続く凄惨なギャング抗争である。
Foolioは、ジャクソンビル北部Moncrief地区の「6 Block」を中心とする「KTA(Kill Them All)」連合の象徴的存在であった。対するライバル勢力が、ラッパーYungeen Aceがトップに君臨する「ATK(Aces Top Killers / Aim To Kill)」や「1200」である。
2017年5月、ATKメンバーがFoolioの従兄弟であるZion Brownを襲撃・殺害した事件をきっかけに、抗争は本格的な報復の連鎖へと突入した。両陣営は現実の銃撃戦にとどまらず、Drillラップの楽曲内でお互いの死者を嘲笑し合い、流血を煽り立てた。
Foolio自身も、流血の惨事と無縁ではなかった。殺害される約8ヶ月前の2023年10月7日、ジャクソンビルで銃撃を受けて足を負傷しながらも生還している。この前日にはATK関係者とされるAntonio Tillie Jr.がUber車内で射殺され、一般市民の運転手までもが巻き添えとなって死亡していた。
一方のYungeen Aceも、2018年6月に車ごと襲撃され、8発の銃弾を受けながら奇跡的に生き残った過去を持つ。しかし、この襲撃で弟のTrevon Bullardと親友2人を一度に失った。Foolioは後日、亡くなった3人が眠る墓地でミュージックビデオを撮影し、墓石の前で寝そべったりシャンパンを開けたりして相手陣営を激しく挑発した。
さらに、Foolioが殺害されてからわずか5日後の2024年6月28日、Yungeen Aceは新曲『Game Over』をリリースする。
「朝5時に電話が鳴った。車には4人いて、1人は死に、3人は撃たれた」
歌詞の中でDon Julioのテキーラを掲げ、Foolioの死を強烈にディスったこの楽曲や『Do It』などは、法廷でも陪審員へ動機を説明するための証拠として再生された。Yungeen Ace自体は今回の事件で起訴されていないものの、泥沼化したドリルラップ抗争が引き起こした殺意の深さを物語る象徴的な事例として扱われた。
裁判の波乱:単独裁判となったアリシア・アンドリューズ
裁判は異例の展開をたどった。2025年10月、まず監視役とされるAlicia Andrewsの単独裁判が先行して行われたのである。
検察は彼女に第一級殺人罪を求刑した。AliciaはIsaiah Chanceの交際相手であり、事件当時は妊娠中で、2025年2月に勾留先の刑務所で出産を迎えていた。公判初日、陪審員が入廷する前に法廷でメイクを受け、笑顔を見せる彼女の姿はメディアでも話題となった。
検察側は「Foolioの居場所をリアルタイムで実行犯に伝え続けた、計画に不可欠な共謀者」と主張。対する弁護側は「彼女は恋人との旅行に同行しただけで殺害計画は何も知らなかった。恋人がギャングであることすら知らなかった」と無罪を訴えた。
公判では数々の不自然な点が浮き彫りとなった。
- 6月22日、ジャクソンビルからタンパへ車で移動したものの、観光スポットには一切立ち寄らず、巡ったのはナイトクラブの駐車場とマクドナルドのドライブスルーのみであった点。
- 真夏のフロリダでコロナマスクを着用し、クラブ巡りにもかかわらずジーンズにクロックスという極めてカジュアルな服装だった点(検察はカップルを装う「カモフラージュ」だと指摘)。
- 2021年1月、親友に対し「Foolioが本当に嫌い。あいつは死ぬべき」というテキストメッセージを送っていた点。
証言台に立ったAliciaは、質問に対して一切迷うことなく即答し、極めてテキパキと回答した。過去にIsaiahから暴力を受けていたことや、怖くて逆らえなかったことを告白しつつも、「殺害計画については何も知らなかった」と一貫して関与を否定した。
2025年10月31日、評議はわずか約2時間で終了した。陪審が出した評決は、第一級殺人罪および共謀罪については「無罪」、過失致死のみ「有罪」というものであった。
しかし、物語はここで終わらない。評決後、裁判を担当していたミシェル・シスコ判事が弁護側に対して偏見を持っていたとして弁護側が判事の交代を申し立て、2026年1月に控訴裁判所がこれを認めたのである。異例の判事交代を経て、キンバリー・フェルナンデス判事が後任に着任。2026年5月22日の量刑公判にて、Aliciaには最大刑である懲役15年が宣告された。
4人の男性被告に対する共同裁判
死刑を求刑されていた残る4人の男性被告(Isaiah Chance、Sean Gathright、Rashad Murphy、Davion Murphy)は、個別裁判の申し立てが却下され、2026年4月8日から共同裁判が開廷した。なお、この共同裁判はAliciaのケースで交代となったシスコ判事が最後まで指揮を執った。
法廷で明かされた4人の動機と証拠はあまりにも雄弁であった。
首謀者:Isaiah Chance(当時21歳 / ATK関連)
報復を組織化した中心人物。Aliciaのデバイスを使って実行犯のGathrightに位置情報を送り続け、一軒目のクラブでは「電話に出ろ!」と焦るメッセージを送っていた。2023年10月に殺害されたAntonio Tillie Jr.の親友であり、強い復讐心を持っていたとされる。
実行犯(シューター):Sean Gathright(当時18歳)
Foolioの車にアサルトライフルで猛烈な追い打ちをかけ、致命傷を与えたとされる最年少の被告。軍人家庭で育ち、幼少期に日本に住んでいた経験もある優秀な生徒だったが、ストリートの闇に染まっていた。
彼の自宅や車からは、2023年10月のFoolio射殺未遂事件の現場と弾道一致する薬莢、犯行時に薬莢を散乱させないための「ブラスキャッチャー」付きライフル、さらにはスマホに残された「Foolioの滞在先を執拗に検索する録画データ」など、言い逃れのできない大量の証拠が押収された。
実行犯(シューター):Rashad Murphy(当時30歳 / 1200)
「最も年長で冷酷なヒットマン」と位置付けられた人物。2018年に敵対勢力に殺害され、墓を荒らされるなどの侮辱を受けたJoerod “Spazz” Adamsの従兄弟である。全自動Glock拳銃を使用し、犯行前にはジャクソンビルのウォルマートで実行時と同じ服を購入していた。殺害後には、Tom BradyとBill Belichickのスーパーボウル勝利写真とともに「俺を憎めばいい、どうせ俺の勝ちだ」と投稿していた。
実行犯(シューター):Davion Murphy(当時27歳 / 1200)
他の4人が逮捕されてから約半年間、警察の包囲網をかいくぐり逃亡を続けた人物。逮捕後の取調室では突然Rod Waveの曲を歌い出し、踊ったりギャングサインを出したりと奇行を繰り返した。法廷でも無罪を主張しながら不敵な笑みを浮かべ、Rashadと口論になって退廷させられる場面もあった。
評決、そしてそれぞれの「代償」
2026年5月8日、8時間以上に及ぶ評議の末、陪審員団は男性被告4人全員に対し、第一級計画殺人罪、謀殺共謀罪、第一級殺人未遂罪(3件)のすべてで「有罪(Guilty)」の評決を下した。評決が読み上げられた瞬間、18歳のシューター、Sean Gathrightは法廷で泣き崩れた。
フロリダ州法において、第一級計画殺人の有罪に対する量刑は「死刑」か「仮釈放なしの終身刑」の2択しかない。
量刑公判では、被告たちの複雑な生育環境や障害が次々と明かされた。Chanceには知的障害(IQ71)とADHDがあること、Gathrightは荒れた父親との葛藤があったこと、Rashadは虐待を受けたフォスターケア育ちでPTSDを抱えていること、Davionは父親が終身刑服役中で自身も14回の転校を経験していたこと――。情状酌量を求める家族たちの悲痛な証言が続いた。
検察側は力強く死刑を求刑したものの、陪審員団が選択したのは終身刑の推奨であった。
2026年6月22日、最終判決の日。
最終陳述にて、Gathrightは聖書を引用しながら「自分の人生は始まったばかりで、変わりたい」と被害者遺族へ謝罪した。
Chanceは「21歳で終身刑なんて、ドリルラップの抗争は割に合わない」と若者へ向けた警告を発し、Davionもまた「Z世代よ、人生を変えろ。こんなものは割に合わない(It ain’t worth it)」と訴えた。
シスコ判事は、24年間のキャリアの中で最も難しい裁判であったと振り返り、被害者であるFoolioの過激な生存中の挑発行為に触れながら言葉を紡いだ。
「Charles Jones(Foolio)が死ぬ必要はなかった。しかし、あのような挑発を続ければ、自ら殺される確率を跳ね上げるようなものだ」
判事のその言葉を聞いた瞬間、被告席のDavionが大きく手を叩き(クラップ)、同調してみせる仕草を見せ、法廷内を一瞬騒然とさせた。
最終的に、判事は4人全員に対し『仮釈放の可能性がない終身刑』を言い渡した。
死刑こそ回避されたものの、彼らに残されたのは、冷たい四方の壁の中で一生を終えるという過酷な現実であった。ドリルラップがもたらした報復の連鎖――その代償は、あまりにも大きすぎたのである。