2026年1月3日、ベネズエラの大統領ニコラス・マドゥロが
トランプ政権による軍事作戦「Operation Absolute Resolve」で逮捕・拘束され、米国へ移送された。
これは前代未聞の事態である。
米国はこの政権を
「国家ぐるみの犯罪ネットワーク」
「麻薬を武器にアメリカ社会を内部から攻撃する外国テロ組織」
その核心にある「太陽のカルテル」――Cartel de los Soles――
米国はこれを2025年11月に外国テロ組織(FTO)として指定し、マドゥロ逮捕の根拠とした。
ここで物議を醸している「太陽のカルテル」と呼ばれてきた組織の実態を解説する。
名称の由来は1990年代、ウゴ・チャベス政権誕生以前に遡る。
「太陽のカルテル」という名称は、最初から実在する犯罪組織の正式名だったわけではない。
当時、米当局はカリブ海経由の従来コカイン・ルートの取り締まりを強化した。
その結果、密輸業者たちはルートを変え、メキシコ経由で米国本土へ運ぶ流れが増えた。
同時期、ベネズエラを“迂回ルート”や“中継拠点”として使う動きも目立つようになる。
この時点で、すでに告発は相次いでいた。
ベネズエラの警察や軍将校が賄賂を受け取り、密売人や輸送を黙認していた――という疑惑である。
疑惑が一気に噴き上がったのが 1993年だ。
反麻薬対策を担っていた国家警備隊の将軍らが麻薬取引関与で捜査対象となった。
ここで象徴として注目されたのが、将軍たちの肩章である。
彼らは肩章に 金色の太陽(sol)の徽章を付けていた。
この太陽は、ベネズエラ軍の階級章だ。
太陽の数は階級で増える。
准将(General de Brigada):太陽1つ
少将(General de División):太陽2つ
中将(Mayor General):太陽3つ
大将(General en Jefe):太陽4つ(最高位)
そこで報道関係者や捜査の現場は、皮肉を込めて呼び始めた。
「Cartel del Sol(太陽のカルテル)」――太陽“ひとつ”のカルテル、である。
だが、その後さらに告発が続く。
太陽2つの師団クラスまで疑惑が広がり、関与が疑われる将軍の名が次々と浮上した。
もはや太陽1つではない。複数の“太陽”が絡んでいる。
こうして呼称は単数形から複数形へ変わる。
Cartel del Sol(単数) → Cartel de los Soles(複数)
すなわち **「太陽“たち”のカルテル」**である。
この言葉は、軍上層部の腐敗を告発するために生まれた、半ばジョークめいた“あだ名”だった。
最初から企業組織のような「正式名称」ではない。
カルテル・デ・ロス・ソレスーーー
それは、ベネズエラの高級軍幹部や政府関係者が関与しているとされる
汚職構造に基づく犯罪ネットワークの総称である。
シナロア・カルテルやCJNGのように、
明確な本部、明確な指揮系統、明確な縄張り、明確なトップ――
そういう“典型的カルテル”とは性質が違う。
関与が指摘されるのは、主に次の領域だ。
・麻薬密輸
・ガソリンの闇取引
・違法採掘(金など)
・大規模汚職
中核は言うまでもなく、コカインの国際密輸である。
陸海空軍や国家警備隊の中に点在する独立セルが、
・空港
・港
・国境
・レーダー施設
といった **“要所”**を押さえる。
止めることもできる。見逃すこともできる。通すこともできる。
国家の隅々に散らばる無数の汚職の点が、権力という見えない糸でつながったとき――
それは世界が震撼する 国家ぐるみの異質な麻薬ネットワークとなる。
ただし、各セル同士がどこまで連携し、どの程度統合されているかは、今も明確ではない。
「太陽のカルテル」が チャベス政権(1999〜2013年)で爆発的に広がったと言われている。
きっかけの一つが、2000年代初頭に本格化した プラン・コロンビアだ。
米国とコロンビアが組み、麻薬と左翼ゲリラの壊滅を狙った大規模作戦である。
結果として、コロンビアの反政府ゲリラ FARC や ELN は圧迫され、
ベネズエラ側へ逃げ込み拠点を作るようになる。
彼らはベネズエラに依存せざるを得ず、政権との関係が深まっていった。
一方でチャベスは2002年のクーデター未遂を機に、軍内部の反対派を徹底的に排除した。
その代わり、忠誠を誓う将校を閣僚や国営企業PDVSAの要職に据える。
表向きは「軍と民の統合」である。
しかし実態は、軍が経済の要所を握り、**「罰せられない特権」**を得る構造の完成であった。
そして地下に眠る、国を豊かにするはずだった膨大な石油ーー。
それはチャベス末期からマドゥロ時代、経済運営の失敗と価格暴落で、「資源の呪い」に変わった。
合法収入が枯渇したとき、権力中枢はより暗く、より儲かる「白い粉」――コカインへ寄る。
石油が生んだ腐敗が、麻薬という別の毒に姿を変え、政権を支える柱になっていったのである。
2000年代半ば、それまで「密売人から賄賂や保護料を取る」という程度の段階から、
自分たちでコカインを購入・保管・流通させる側へシフト。
一説には、コロンビア側が報酬を現金ではなく“麻薬そのもの”で渡すようになり、
軍将校が独自の販売ルートを構築せざるを得なくなったとも言われる。
賄賂を受け取る側から、在庫を持つオーナーとなった
彼らはもはや「汚職軍人」ではなく「制服を着たカルテル」へ変貌した。
司法や警察のトップが、巨大犯罪の幹部でもある。
強力な軍は国家を守る盾ではなく、利権を守る暴力装置になっていく。
チャベス時代に加速した軍の腐敗と麻薬ビジネスは、
マドゥロ政権(2013年〜)で 制度化され、さらに悪化した――
さらに国内統治の空白は、ギャングの異常な拡大も生む。
Tocorón刑務所を発祥とする Tren de Aragua のような組織は、
国家の穴を利用して勢力を広げ、国境を越える犯罪ネットワークへ成長した。
そして“太陽のカルテル”との関係が取り沙汰される。
2004年、ジャーナリストのマウロ・マルカノが国家警備隊高官の麻薬関与を告発したが、同年暗殺された。
政府捜査は進まず、高官は配置転換のみ。
マイケティア国際空港では軍関係者が貨物室にコカインを直接積み込む姿が目撃された。
「押収」はライバル排除と無料仕入れの手段だった。
米国推定では、ベネズエラ経由コカインは2004年の50トンから2007年には250トンへ激増。
2005年にチャベスがDEAを追放したことが外部監視を排除した要因だ。
ベネズエラはコロンビア産コカインの主要通過国となり、軍管理の流通ルートを構築した。
2008年、ブッシュ政権下で米財務省はチャベス最側近のウゴ・カルバハル("El Pollo")をKingpin Actで制裁。
FARC支援、密輸保護、武器提供、偽造文書発行が理由だ。
チャベスは「政治的迫害」と否定したが、これは「麻薬国家」構造の初期証拠となった。
カルバハルはスペイン逃亡後2019年逮捕、2023年米国引き渡し。
2025年6月にnarco-terrorismなどで有罪を認め、現在収監中だ。
2025年12月2日、獄中からトランプ大統領と米国国民宛の手紙を公開。
「贖罪」としてマドゥーロ政権を「麻薬国家」と暴露。
2000年代半ばにキューバがチャベスに提案した「麻薬を武器にする」計画で、
FARC・ELN・ヒズボラ・キューバ工作員と連携し、
米国への麻薬流入・スパイ活動・Tren de Aragua支援を行ってきたと主張している。
マドゥーロ政権(2013年〜)で腐敗は制度化され、さらに悪化した。
Tren de AraguaはTocorón刑務所を発祥とし、国家統治の空白を突いて拡大。
プール・ナイトクラブ・動物園まで備え、国境越え犯罪組織へ成長。太陽のカルテルと密接に関係し、
シナロア・カルテルとも協力したとされる。
2015年、オバマ政権はベネズエラを「異常な脅威」と宣言。
高官らに制裁を連発。
2016年、元反麻薬局長ネストル・レベロルが麻薬関与で起訴(逃亡中も高官継続)。
2017年トランプ政権下、タレック・エル・アイサミ副大統領が制裁・起訴。
2020年3月、米国司法省はマドゥロ、カベージョら15人以上を麻薬テロリズムなどで起訴。
Cartel de los Solesを国家ぐるみネットワークと非難。
懸賞金はマドゥロ$1500万(2025年$5000万へ増額)。
バイデン政権では制裁緩和もあったが、2024年選挙不正で停止。
そして2026年1月3日、トランプ政権が「Operation Absolute Resolve」を実行。
マドゥロと妻シリア・フローレスが確保され、ニューヨークへ移送。罪名はnarco-terrorismなど最重罪。
米国司法省は2026年1月3日のマドゥロ逮捕後の修正起訴状(superseding indictment)で、
Cartel de los Solesを正式な組織として扱わず、「patronage system(庇護システム)」や
「culture of corruption(腐敗の文化)」として再定義した。
軍高官の太陽徽章を皮肉った俗称で、緩やかな腐敗ネットワークを指す。修正起訴状はこの点を強調し、
Maduroを「庇護システムのトップ」として位置づけている。
これは、立証の難しさから組織としての主張を撤回した形だ。
現職国家元首逮捕という前例のないケースだ。長年続いた闇の帝国に終止符が打たれるのか。
それとも新たな影が動き出すのか。世紀の裁判とベネズエラの未来に、世界の目が注がれている。